サーストンの一対比較法
書籍「製品開発に役立つ感性・官能評価データ解析−Rを利用して−」より引用
検定表、数表は省略しています。
以下の例の手順および数値の詳細は書籍でご確認ください。
また、表示の関係から、数式が正しく表示されていない部分があります。
J-SEMS.PROで以下の解析を行うことができます。
手法
ブラッドレイの方法と同様に、対にした2 種類の試料のどちらが上位かを判定するだけで、シェフェの方法のように、その程度まで答えさせることはしない。サーストンの一対比較法の基になるモデルは、サーストンの比較判断の法則である。例えば、試料iと試料jを一対比較する場合を考える。試料iが与えられた時、試料iによって評価者が感じる主観的な大きさは、いつも一定とは限らず、ばらつきを持つ。そのばらづきは、平均値がXi、標準偏差がσ iの正規分布になると考える。同様に、試料jが与えられた時には、その主観的な大きさは、平均値がXj、標準偏差がσ jの正規分布になると考える。かりに試料i に対する主観的な大きさの平均値Xi が、試料j に対するそれよりも大きかったとするならば、試料iの分布は、試料jのそれよりも、主観的な大きさの尺度上で、右に位置することになる。しかし、試料iの分布と試料jの分布が完全には離れていなくて、重なっていた場合に問題になるのは、平均値はiの方が高くても、iとjを比較した時に、いつもi の方が大きく感じるということはないということである。それぞれは、正規分布にしたがってばらつきがあるので、時には、その関係が逆転することもある。両者を比較する時に、評価者がiの方がjよりも大きいと感じるのは、両者の主観的な大きさの差、つまり、Ri-Rj が0よりも大きい(正の)値を取った時ということになる。そこで、試料iと試料jに対する主観的な大きさの差の値を考えた時、その値は、すでに述べたように正の値を取ることもあれば、負の値を取ることもあり、その主観的な大きさの差の分布は、平均値が、Ri − Rj 、標準偏差が、
の正規分布になると考える。
これが、サーストンの比較判断の法則である。これを図で示すと、以下のようになる。
一対比較法の原理
(a) 試料i と試料j に対する主観的大きさの分布 (b) 試料i と試料j に対する主観的大きさの差の分布
ここで、 iとjを一対比較させた時に、iの方が大きい(あるいは、好きだ)と答える確率は、Ri ーRj が0よりも大きい(正の)値を取る確率ということになるので、上図左の横軸の0から伸びた垂線と正規関数で囲まれた面積に対応する。そして、この0から、差の分布の平均値Ri − Rj までの距離Ri − Rj を、差の分布の標準偏差
を単位にした距離で表すと、
となり、
となる。
サーストンの一対比較法では、σ iとσ jが異なる値を取るか、同じ値を取るか、iとjの相関係数を0と考えるか否かなどで、5つのケースを考えているが、この中で、最も実用的で一般的に用いられているのは、ケースⅤである。ケースⅤでは、σ iとσ jは同じ値を取り、rij=0 と仮定する。
すると、
となる。
ここで、iとjの差の単位を√2σ とすれば、
となる。
解析法
大根を切った時の5種類の包丁の切れ味について、サーストンの一対比較法により調べた。5種類の包丁を対にすると5C2=10 組の対ができる。そこで、300人の消費者を30人ずつの10組に分け、どちらの包丁の方が切れ味が良いかを評価してもらった。
結果は、以下の表のようになった。なお、この表は、包丁i が包丁j よりも切れ味がよいと判断された数を示している。
i>j の度数
次に、上記の度数をもとにして、包丁i が包丁j よりも切れ味が良いと判断された比率を求めると、以下の表になる。
i>j の比率Pi>j
i>j の比率をZ変換することで、対毎にRi – Rjを求める。Z変換は、正規分布表(略)を用いて変換する。
Zi>j=Ri − Rj
次に、同じ表で列毎に列和を求め、さらに平均を求める。この平均値が、各試料の尺度値になる。なお、各列の列和の合計と、平均値の合計が0になることを確認する。
内的整合性の検定
得られた尺度値の一次元性をチェックするために、内的整合性の検定を下記の手順で行う。
-
得られた尺度値から、Ri– Rj の期待値ˆZi> j を計算する。
ˆZi> j = Ri − Rj
-
Zi>j の期待値(ˆZ i> j )から比率の期待値ˆpi> j を求める。
比率の期待値ˆpi> j
-
比率の実測値Pi>j と期待値とˆpi> j の食い違いをみるために、それぞれの比率を逆正弦変換する。
変換式は、下記の通り。
θの実測値θ ij
θの期待値ˆθij
-
θ ij とˆθij の差の平方和(総和)を求める。
θij −ˆθij の差
θ ij とˆθij の差の平方和
-
χ2値を求める。
なお、Nは各対を判断した評価者の人数で、今回は30。
n は、試料の数。χ 2 表(略)より、危険率(p) 0.05、自由度df=6の時のχ2は、12.592であることから、p>0.05となるので、実測値と期待値の間には、統計的に有意な差はないことになり、内的整合性が確認されたといえる。